2009 年 8 月 26 日

宝物

本展には、アンキさん* が差し出した書簡類も展示しています。

アンキさんが書き送った葉書

アンキさんが書き送った葉書

アンキさんは当時世話になった人々から受け取った手紙をとても大切にしていました。差出人は内田百閒、堀口大学、与謝野晶子、佐藤春夫、棟方志功など。いつも肌身離さず持ち歩いていたそうです。その様子を、遺作集『鬼才の画人 谷中安規』 (アポロン社 刊 1972)の料治熊太の文章に見ることができます。

谷中安規は、いつの場合も、財産のごときものは何一つ持たなかった。だから、居を変えるといっても、飄々と身一つで越せば良かった。しかし、その彼が、いかなる時も身から離さない一包みの財産があった。それは、財産といえるか、どうか、しらないが、人から来た便りの文殻一束を包んだ風呂敷包みであった。
戦時中、戦火で西ヶ原の本山アパートが焼けたときも、最後までガンバって防火につとめたのは、彼であったが、しかも、手紙類は、かたく身にしばって、守りつづけたのであった。そして、昭和二十一年九月、餓死して果てた小屋の中にポツンと一つ残されたものは、これら数十通の手紙の入った風呂敷包みだけだった。
(料治熊太「鬼才の画人 谷中安規  〈一包みの全財産〉」より)

これらの手紙類が入った風呂敷包みは、アンキさんの没後、八坂喜代さんが保管し、遺骨とともに遺族のもとに戻されました。

* アンキさんとは、谷中安規(たになかやすのり 1897-1946) のことです。勝手ながら親しみを込めて呼ばせていただいております。

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